「心の足を大地につけて」復刻版にのぞんで

 

 「 terry's room 」のフォトギャラリーに、かつて僕が写真担当をした、「心の足を大地につけて」ー完全なる社会参加への道ー、の、復刻版を上梓しました。どうかご覧になって下さい。

 

 今年の1月、札幌市の姉妹・孤立死のニュース報道を知ったとき、僕はがく然としました。

 あれだけ、「国際障害者年」の時に障害者福祉のことで、全国でも突出するぐらいの運動を展開し、数々の成果を獲得した経験のある札幌で、なぜこんなことが起きたのか? 僕は少なからず義憤に心が乱れてしまったのです。

 

 「心の足を大地につけて」本は、国際障害者年が始まった1981年に、札幌の小山内美智子さん(「札幌いちご会」代表)によって編集・執筆され、ノーム・ミニコミセンターから出版されました。

 

 

 

 生まれた時からの脳性マヒの小山内美智子さんは、それまでの障害者福祉施設の生活で、病院式の大部屋に入れられて、好きな人がいても話し合える部屋もない、泣きたくても泣けない、一日中人に見られている。それでも管理者の言いなりになって、いい子で生きていくことに疑問を感じ、福祉の先進国といわれたスウェーデンのフォーカス・アパートを実際に見て体験してきました。

 障害者も健康な人とおなじ住宅に住みたいと思うことは当然なことだ。そして私は泣きたい時に泣ける部屋、排泄を手伝ってもらわなければならない人もすばらしい恋をし結婚もできる、「生きる場」をつくれる! と、小山内美智子さんは確信して日本に帰ってきたのです。

 

 今日では障害者のためのケアー付き住宅は当たり前のことと思われているけど、ほんの30年ほど前の日本では、障害者がひとりで生活するのは危険だ。何かあった時にはどうするのだ。という、管理する側の考え方が一般的だったのです。(今でもそれはかわりませんね)

 小山内美智子さんは、「私たちは、自分で判断し、決定し、行動する。自らが責任を持って生活できる人間だ」 「いずれ日本のあちこちにケアー付き住宅が制度として整い、普通の民間、公営アパートの一部に障害者の住宅を10数戸がうめこまれ、1階にはヘルパー室があり、24時間体制で、トイレ、食事、着替えなど、必要な時にボタンを押すと介助が受けられるというのがケアー付き住宅が必ずつくられる」という信念のもとに、実験生活を始めたのです。

 

 これはその当時、画期的ことでした。この考え方は今日でもなお斬新で、新鮮な輝きを失ってはいないと思います。

 小山内美智子さんの予想どおり、今ではあちこちでケアー付き住宅を見かけるようになりましたが、「国際障害者年」当時、施設から街に出よう、自分たちの自立生活を確立しよう、障害者もいるのが当たり前の社会なのだというバリヤフリーの考え方、ノーマライゼーションの考え方をもっと普及させようと運動を進めていた若い障害者やそれに賛同するボランティアグループは、最近の若い障害者の生き方を見て、

 

 「   何でもそろったいたれりつくせりのケアー付き住宅にいる若い障がい者たちが、これが当たり前と思っていることの不自然さです。瀬戸際の切迫感や緊張感の裏返しで、いま生きていることの素晴らしさを感じることが出来なくなっているのではないでしょうか。

 僕たちが30年前に運動したときの「いま社会を変えなければ障がい者は生きていけなくなる」「憲法で保障されている『幸せになろうと努める権利』を実現しよう」という意識は、いまの若い障がい者に受け継がれていないことを痛感します。  」

 

と嘆きます。

 

 当の小山内美智子さんも最近のコメントとして、

 

 「   今の若い障がい者はあまり運動をしませんね。淋しい事です。中途半端な幸せに甘えているのではないかと思っています。

 土井さんも池田さんもたくましく生きています。70過ぎても高齢者のヘルパー制度ではなく戦いながら障がい者のヘルパー制度を受けています。

 そういう人たちが生きている限り後に続く人たちは楽なんですよね。

『いちご会』はそういう種をまけて良かったと思っています。   」

 

と述べています。

 

 2002年10月に札幌で第6回DPI( Disabled Peoples ' Internatinal =障害者インターナショナル)世界会議が行われたことが契機となって、DPI北海道ブロック会議が設立されました。これで障害者が社会に向けて発言できる機会が大きく前進したわけですが、参加・所属する障害者団体やグループ、個人・有識人たちが自分たちの立場や考え方に固執して、会議のための会議に終始していろようなことはあってなならないことだと思います。何のため誰のための組織か分からないようになってしまいます。それぞれに運営のやり方や難しい人間関係も生じてくるのでしょうが。しかしそこを乗り越えて大同団結にいたらなければ、障害者の”明日”はありません。

 

 障害者・高齢者・難病患者を社会のお荷物、厄介者だと考えているような管理者側・行政サイドは、少しでも油断をみせればその間隙をぬって、あらたな巧妙な手口でそれまでの生活擁護の既得権や、やっと勝ち取った民主的権利すらも、あらたな法律や条令でじわじわと踏みにじろうとします。そのことは僕自身、かつてフリーカメラマンとして障害者・難病患者・寝たきり老人にかかわってきたのに、その僕が難病患者で身体障害者でひとり暮らしの高齢者(苦笑)になってみて、痛烈に感じていることなのです。

 もしケアー付き住宅の一室にこもって、世間に目もくれず、自分ひとり小さな安住の世界にとどまっている若い障害者いたなら、今は良くても自分が年を取ったときに、取り返しのつかない後悔をする羽目になるのです。

 あらためて僕は大きな声で叫びたくなります。

 

 「 国際障害者年を風化させるな! 」

 「 あのときの熱い思いを忘れるな! 」

 

 

 今のケアー付き住宅を見ていれば、立地条件の難しさからか、街の真ん中から少し外れたへんぴなところにつくられているものも多いように思えます。いわば社会から隔離されたところにあるわけです。それでは新型の福祉村(コロニー)にすぎません。

 今のケアー付き住宅が完成された姿ではなく、まだまだスウェーデンやカナダなどの福祉先進国のフォーカス・アパートから比べれば建設途上なのだ、という認識を持たなければならないと思います。

 より快適な住宅でより住みよい環境を作っていくのは、今の若い障害者の仕事なのです。

 

 でも本当の豊かな生活とは、そんな物質的なものだけではないはずです。

30年前、「心の足を大地につけて」本のあのころの小山内美智子さんも土井正三さんも池田源一さんも、重い身体障害をかかえつつも、自分でお買い物をして自分で料理して、絵を描き原稿を書き、お出かけしては四季の風景を楽しみ展覧会などで芸術にいそしみ。とにかく自分の方から積極的に社会と関わろうとしていました。

 障害者自立支援法も居宅介護制度もなかった時代に、自分でボランティアを見つけ、研究生活に予算をつけてくれるように北海道庁や札幌市役所に自ら歩いて回りました。そんな困難に向かっていく中で、障害者としてひとりの人間として生きる確かな手応えを感じ明日への希望をつかんでいったのだと僕は思えるのです。

 30年ぶりに倉庫にしまってあったフィルム・ネガをひっぱりだして、パソコンでアナログからデジタルの写真加工を試み、「心の足を大地につけて」のインターネット上での再現に挑むなか、自分の撮った写真ながらあらためて、小山内美智子さんも土井正三さんも池田源一さんも頑張っていたなぁ~。こんな写真が撮れてよかったなぁ~、と感じたのです。

 

  障害者として生きることは、何んも決して健康な人、一般人の半人前ではありません。障害のある機能を補うために、それぞれの障害者は自分独自で他の機能や感覚を発達させて生きています。生きるための知恵です。それはときには健常者以上に豊かでオモシロイ人生が過ごせるものなのです。まさに障害者として生きる ”醍醐味”は、ここにあるのです。

 

 もし皆さんのまわりに身体障害者でも健康な身体を持つ健常者であっても、日々決まった仕事や安全だけど変化のない日常に埋没してしまって退屈で、新しいことに挑戦しようとしてもいろんなしがらみもあって勇気を出せないでいる人。社会にも自分自身にも無関心になって無気力になっている人、そんな人がいたら、言ってあげて下さい。

 

 「  身体に障害があろうがなかろうが、生きていくうえでのどんな苦労や困難があろうが、結局それを避けて通ることはできない。それを乗り越えてこそ新しい自分が発見できる。生きる確かな手応えを感じるものなんだ。  」

 

 そんなメッセージをこの「心の足を大地につけて」本から、”今” の世の中に発信できるのなら、こんな大きな喜びはありません。

 

 若くして死んでしまった、ノーム・ミニコミセンター主宰の故西村英樹。あなたの熱意と奮闘のおかげで、「心の足を大地につけて」本が世に出て、その足跡を残すことができました。その足音は小さくとも確実に今日的な響きをもって、次世代に伝わっていくことでしょう。

 

 つたないこの一文を、西村英樹に捧げます。

 

                             もって瞑目す  中田輝義 拝

 

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