熊野三小の道徳授業が終わりました

 

 7月19日(木)、熊野第三小学校の「道徳授業」は予定どおり行われました。6年1組の教室は3階にあり、男子先生方が4人がかりで手動車椅子ごと階段を運んで下さいました。恐縮して身が縮む思いがしました。

 担任は、U先生とおっしゃる、やさしそうな女性の先生でした。U先生が「電動車イスひとり旅」本からの副教材を読み上げて、生徒たちに意見と感想を求める形で、いよいよ5時限目の授業が始まりました。

 

 

 

 最初はU先生から発問されても、生徒たちからの感想や意見はそんなには出ないだろうと思っていたのに、さにあらず、クラスのほとんどの生徒が元気な声で、「はーい、はーい!」と手をあげているのです。受け答えの内容も、実に的確で、ええっ、こんなことまで考えているの! とビックリするような意見・感想が飛び出してくるのです。僕は児童たちの判断力と感性にド肝を抜かれました。そしてこんなにも真剣に僕の本について勉強してくれている姿に、じわじわと感激の心がもち上げてきたのです。

 

 6時限目の授業は6年2組と合同で、2階の音楽室で行われました。また男子先生方の出番で僕を2階まで運んで下さいました。6年2組も5時限目は「道徳授業」で「電動車イスひとり旅」本の副教材でお勉強していました。あわせて50人ほどで、これで6年生全員なのだそうです。

 

 U先生が司会役をして、質疑応答の授業が始まりました。

 

Q:おにぎりをもらったとき、どう思いましたか?

 

 僕は前の日の晩からほとんど何も食べていませんでした。もうお腹がペコペコで。そんなときに見ず知らずの旅の電動車イスの僕に、家の前で庭掃除をしていたおじいさんが奥様といっしょに、「あり合わせで、何もありませんが、どうぞ召し上がってください」と言われて、おにぎり2個と漬物とペットボトルのお茶とアメ玉をくださいました。そして、「眺めの良いところで食べたほうがいいでしょう」と言って僕を抱きかかえて、海辺の岸壁まで連れていってくださいました。

 僕はうれしくて、ありがたくて、目から涙があふれてきました。赤の他人の僕をこんなにも親切にしてくださっている。僕はこのおじいさんと奥様から、旅を続けていくあらたな勇気を貰いました。このことは僕の一生涯で決して忘れることはないと思います。

 

Q:充電をさせてもらったとき、どう思いましたか?

 

 さきほど、おにぎりをもらったときのことをお話ししましたが、とってもありがたことでした。充電を頼んでも全部の人たちがさせてくれたわけではありませんでした。でもそれでがっかりしてはいけないと思いました。ここがダメなら次ぎに行けばいい。次ぎに行けばチャンスはきっとあると、良い方向に考えることにしました。だからみなさんも、一度失敗したからといって、へこんだりしないで、次のチャンスをめざしてください。

 

Q:充電をしているとき、何を考えていましたか?

 

 僕の重症筋無力症という病気は、疲れるとすぐに筋肉が固まって動かなくなるのです。だから疲労回復させるために、まず居眠りをしていました。硬い電動車イスで居眠りをするのは大変なんですが、疲労回復させないと、旅を続けられないからです。

 目が醒めて元気を取りもどすと、地図をみて次の行程を確かめていました。どんな山があるだろう。どんな坂があるだろう。今夜の宿はどうしよう。それまで充電はもつだろうか。いろいろなことを考えておかなければなりません。

 でもその合間に、きれいな風景だなぁ~。山や空が美しいなぁ~と、ぼけーっと見ていました。充電時間はとっても大切で、身体の回復と同時に、心の回復の時間でもあったんですね。

 

Q:旅を途中で、やめようと思ったことはありませんか?

 

 ありません。札幌で香西さんが待ってくれている。その期待を裏切ることはできません。もし僕ひとりの楽しみで旅をしているのなら、途中で苦しくてイヤになったからと言って、やめても困るのは僕だけです。でも待ってくれている人がいる。その人のためにも僕は絶対に安全に無事に札幌について、香西さんと会わなければならないと思っていましたから、途中でやめようと思ったことは、ありませんでした。

 

Q:札幌に着いたとき、香西さんからなんと言われましたか?

 

 香西さんは最初に僕の顔を見て、「生きていて、よかったね!」と言ってくれました。同じような病気をかかえる者同士。旅がどんなに大変か、知ってくれていたんですね。その後で、「中田さんは必ず来ると信じていた。それは理屈をこえた予感だった」と言ってくれました。僕のことを信じてくれていた。僕はこんな友だちを持てて、本当に幸せでした。苦労が一気に報われた気持ちになりました。

 

Q:旅から帰って、いま何を思っていますか?

 

 「やれば、できる」ということです。苦しくてもつらくても、本当に心からやりたい、やろうと思ったことは、できるということです。でもそれが、単なる思いつきではダメですね。それには確かな準備と計画が必要です。それがなければ絶対に成功しません。だからみなさんも、何かに挑戦するときには思いつきではなく、チャンとした準備をしてください。

 

Q:旅から帰って、次ぎに何をしようと思いましたか?

 

 いま次にやることの準備をしています。それが何かはまだ分かりません。でもはっきりしているのは、今回のやり遂げられたことに味を占めて、簡単に次の旅をやってしまうと、大きなしっぺ返しを喰らうことになると思っています。

 今回の旅は、僕の楽しみやわがままだけの旅ではなくて、香西さんを励ましてあげたいという思いから出発した旅でした。いろんな条件が整ってタイミングも良くて準備もしっかりとやって、いましか行けるときがないと覚悟を決めて旅立ちました。だから旅先でもいろんな人が助けてくれたんだろうと思います。

 もしまた僕が旅をするか、新しいことに挑戦するときは、「今だ!」って、誰かが教えてくれることでしょう。僕はその時のために今からしっかり準備をしているところです。

 

Q:旅から帰って、今度は人に親切にしようと思いましたか?

 

 ひゃーー、すごい質問だなぁ~!? 

 みなさんは、「情けは人の為ならず」という言葉を聞いたことがありますか? ありませんか。(質問した児童に)もしあなたが人に親切にしてもらったら、”ありがとう”と言いますね。それで今度はあなたが人に親切にしたときは、その人から、”ありがとう”と言われます。

 今度その人が全然知らない人に親切にしてあげたとき、”ありがとう”と言われるでしょう。こうして”ありがとう”という思いが、次から次へと伝わって、いつの日かまわりまわって、あなたがまた、全然知らない人から親切にされて、”ありがとう”と感謝する日がやってくることになるのです。いまのあなた方にはまだ分からないことかも知れないけれど、この世の中にはそんなめぐり合わせが、きっとあるのです。

 

Q:旅から帰って、自分が強くなったと思いますか?

 

 ああ、これもすごい質問だなぁ~(笑い)。

 ハイ、この旅をやり遂げたのだから、これからもガンバって生きていけると思いました。でも、「ヤッターッ!」とか思って、自分ひとりの力でやり遂げたと思っているうちは、それはほんものの強さではありません。いろんな人が助けてくれた。僕の力なんて小さいものだ。その人たちのおかげだ。そういって感謝する気持ちを持ったときに、ほんとうの強さになるのです。そのことを忘れないでください。

 

 

 ここで、U先生から、「最後の質問ですよ」と言われて、一番前に座っていた小さな男の子がサッと手をあげました。

 

Q:重症筋無力症になったとき、どう思いましたか?

 

 えげーーっ!? 最後になって、えらい質問が出ちゃった。まいったなぁ~!? ・・・・・・。

 

 目の前が真っ暗になりました。こんな病気になると、これまで生きていたようにはもう生きられません。出来ないことがいっぱい増えます。僕はこれからどうやって生きていったらいいんだろうと悩みました。立ち直るのにしばらくかかりました。

 でも後になって、この病気になっても一生懸命に生きている人がたくさんいることを知りました。僕ひとりだけが苦しかったんではないんだ。みんな同じような悲しみや苦しみから負けないで、こんなにもガンバって生きている人がたくさんいるんだということを知りました。僕も負けないで生きていこうと思いました。

 今回の「電動車イスひとり旅」も、僕と同じような病気や障害で苦しんでいる人がいたら、少しでも励ましてあげたいと思ったからでした。

 

 これからみなさんも大きくなって大人になったら、いろんな苦しいことや悲しいこと、大変なことがあるかも知れませんが、いつか「電動車イスひとり旅」のことを思い出して、気持ちで負けないで頑張っ生きていってください。

 

 

 U先生より、「今日お話ししてくださった中田さんにお礼の言葉を言いましょう」の言葉が告げられ、全員が起立して、

 

 「今日は、ありがとうございました」

 

 ”こちらこそ、どうもありがとうございました”

 

 授業が終わって、物事に対する反応や意見・考え方に、大人も子供も、年令に相違はないと思いました。感じるところには敏感に感じ、言うべき意見はきっちりと言える。僕は、我が郷土ながら、熊っ子たちの素直な感性に畏れおののき、誇らしくも感じました。

 校長先生から、「今年の5年生が6年生になったときも、この道徳授業をやりますので、中田さん、よろしくお願いします」と言われました。

 僕は来年も熊つ子たちに会えるよう、元気であらなければならないと思いました。

 

 また生きていく勇気をいただきました。

 ありがとうございました。

 

                                      中田輝義 拝

 

 

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コメント: 4
  • #1

    モモ母 (水曜日, 25 7月 2012 23:21)

    小学校でのお話のことを書いて下さるのを楽しみにしていました。
    とても充実した内容だったようですね。子供たちの質問内容も鋭い!!
    私も一緒に聞いてみたかったです。

  • #2

    中田輝義 (木曜日, 26 7月 2012 06:26)

    モモ母さんへ、
    メールをありがとうございます、うれしかったです。
    授業の後ドッと疲れが出てきて、2〜3日気力がわいてこない状態でした。
    でもそれは快い疲れでした。
    何かを伝えることが出来たかもしれないという充足感でもありました。
    でも子どもたちはすぐに忘れるでしょう。
    僕の自己満足にすぎないのでしょう。
    いつの日か心の肥やしのホンのひとかけらにとでも思います。
    でもとにかく、やがてやってくるいくつもの試練の前に、
    いまはすくすくと育ってほしいと願うばかりです。
    連日の猛暑日、どうかご自愛下さい。
    テリー、拝。

  • #3

    fumifumi (土曜日, 28 7月 2012 19:42)

    テリーさん、お疲れ様でした。
    子供達から鋭い質問が出ましたね。
    大人になると聞きたくても聞けない質問かなと思いながら読みました。
    小説や物語じゃなくて身近な人の実話だから心に伝わるのですよ。
    目の前に本人が居るから伝わるのですよ。
    来年も楽しみですね。

  • #4

    中田輝義 (日曜日, 29 7月 2012 06:16)

    fumifumi さんへ、
    おはようございます。
    僕は「旅」の終わりころ小樽に近い忍路(おしょろ)で会った、
    登校中の男の子とことを思い出していました。
    ようやく最後の難関の稲穂峠越えを果たして札幌に着ける確信を得たのに、
    僕はミョウな空虚感におちいっていました。
    その時の登校中のゆうき君との何でもない世間話しは、年の差なんか関係のない、
    一個の人間対人間の会話だと感じさせてくれて、
    僕のむなしい心をホッとなごませてくれて、力を与えてくれました。
    今回の熊っ子たちも全身で僕にぶち当たってくれました。
    僕も真剣にぶち当たりました。
    そのことが今もってさわやかで、清々しい気持ちにさせてくれています。
    ほんの一週間ちょっと前のことなのに、あの時間がとてもなつかしいのです。
    この記憶も僕の一生涯の財産ですね。
    テリー、拝。

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