熊野第4小学校特別授業・エピソード 4

 

  授業を終えて自宅に帰るべく熊野4小の校舎の正面玄関に出たときには、朝からの小雨はもうすっかり霙(みぞれ)まじりの本降りになっていました。

 

授業を終えて

 

 S教頭先生が運転する帰りの車中で、I先生からこんなことを教わりました。

 

 「 今日発言した生徒たちは、いつもクラスの中では目立たなかったり、授業でも手をあげて意見を言わなかったり、いたずらばかりして問題のある子だったんですよ。ビックリしました。」

 

 僕はI先生の言葉を聞いて、こんなふうに答えました。

 

” たくさん生徒がいる中でも、いつもお行儀がよくて温和(おとな)しくて成績も良くて、先生の言うことは素直に聞いていて。そんな手のかからない子どもは、なんとか自分の力で上手くやって行けるものなのでしょうね。先生にとっていつも手こずる子どもや面倒な子どもほど、案外、「先生っ、私はここにいるのよ。僕のことをもっと見てっ」って、訴えているのかもしれませんネ。”

 

 ” (・・・・・)、今日手をあげて質問してくれた子どもたちは、日頃目立たなかったり手こずる子どもたちであっても、かえってあの子たちのほうがあの子たちなりに一生懸命に物事を考えていたり繊細に受けとめていたり、心の中は複雑なのかもしれません。そんな気がします。

 大人は誰だって長い人生経験を持っていますが、あの子どもたちだって、生まれて10何年しかなくても、あの子たちなりに日頃から一生懸命に感じていたり考えているんだと思います。心の中でひそかに、自分のこれまでの全人生経験をかけて、世の中を見つめようとしているんだと思います。何だか、プロの教育者の先生方を前にして、生意気言って、ゴメンナサイ! ”

 

 でもこのとき僕はもうひとつ、心の中に浮かんでいたことがありました。それは浄土真宗の宗祖親鸞の、「善人なおもて往生をとぐ。云わんや、悪人をや」という言葉でした。

 

 親鸞が生きた平安時代末期の、災害がつづき戦乱に明けくれた末法思想の時代。お金があって身分もあって、いつも親兄弟・妻や子どもたちに囲まれていて、暮らしも充分に成り立っていて、世間様から何んの後ろ指をさされることもなく生きている人は、何でも自分の力でこの世の中を乗り切って行けると思っていることでしょう。何の疑いもなく生きていくことが出来るでしょう。

 

 でも一方、戦いの巻き添えで自分の妻や子どもを殺されたり、家を焼かれて逃げ出したり。貧乏でお金もなく寝るところもなく、その日の食べるものもなく飢えていて。生きるためにときには盗っ人をしたり殺したり人の着物を剥いだり。世間様から白い目で見られて差別を受けて虐げられて。 

 

 ” 何んで俺はこんな生きかたしかできないんだ。もっとまっとうな暮らしをしたい!”  

 

そう思って生きている人たちは、心の中に大きな闇をかかえ、もっと仏様の存在を願っていることでしょう。もっと仏の道に近づきたい、救われたいと願っている人たちでしょう。

 

 熊野4小の子どもたちを、『歎異抄』の ” 悪人正機説 ” に例えるなんて、ものすごく失礼なことなんだけど・・・・?

 でも僕には今日質問をしてくれたあの子どもたちが、いっそう可愛く、愛おしく感じられました。

 

 自宅について10階にある僕の部屋のベランダから熊野の郷(さと)を見下ろすと、もう雪が吹雪いていて山も野原もあたり一面真っ白になっていました。それはとっても美しい光景でした。赤や黄色や紅葉しはじめた木々の葉っぱが小雪をかぶり、そのコントラスもきれい。

 みんなこの郷で生きている。生きているんだなぁ~・・・・。

 

                                        ー 完 ー

 

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コメント: 1
  • #1

    中田輝義 (日曜日, 29 12月 2013 15:51)


     実は、熊野第四小学校特別授業の報告を書き終えたのは、今日、12月29日のことです。季節が変わって冬になって寒くなってきて、もう身体が重くて疲れてベッドから起き上がれなくて、一日中ぐったりしている日々が続いていました。
     それでも何とか報告書を仕上げなければと思い、パソコンの前に座るのですが、気力も体力も持続力もわき上がってこなくて、30分も持ちこたえられません。ベッドの中でウトウト眠りこけているときも、部屋の中でぼけーっとしているときもトイレで座っているときも、どう書こうかと考えつづけていて次々とアイデアも文章も頭の中に浮かんでくるのですが、いざパソコンの前に座るといっこうに作業がはかどりません。

     ちょうど1年前の12月の終わり頃にも、広島大学受験の顛末記を仕上げるのに四苦八苦していたことを思い出していました。
     こんなにも筆がおそくなって(パソコンで書いているのだから、筆がおそいというのは当たらない言い方かもしれませんが・・・)(苦笑)、、、、、

     ようするに ” 老いた ” のです(さらに大苦笑)。

     来年の5月には札幌で「熊野の郷・雲」写真展を開催します。こんな状態でどうなることでしょう。これが気力体力持続力がまだある内の、最後の仕事かもしれない。でも「電動車イスひとり旅」以来、毎回毎回これが最後かも、最後の仕事になるのかも思いながら何やかんやとやってきたんだなぁ〜とも思います。あっははは! 
     そして最後の最後まで、中田輝義らしく無様(ぶざま)にあがいていこう、とも思っています。

     これが今年の最後のメール交信になると思います。
    この1年間もお付き合いいただいてありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。
     皆々さまにとって、新年が良い年でありますように。
    ありがとうございました。

                              中田輝義 敬白
                              2013・12・29 記

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