2014年

6月

30日

「熊野の郷・雲」札幌展の総括

 

 僕が札幌で「熊野の郷・雲」写真展を開催するときに、なぜ札幌市教育文化会館4Fギャラリーを選んだのかと言えば、それはこのギャラリーの床面積が100㎡ の広さ、天井までの高さ3m、展示可能な壁面の長さが38mというゆったりとした空間を持っており、しかも他の貸ホールや会議室・研修室から少し離れたところにある独立したスペースだということでした。

 

 

 天井も壁面も淡いアイボリー色。フロアも薄いグレー色。何の飾り気もないシンプルでモノトーンのこの空間は、まさにモノクロ写真展には打って付けのギャラリーでした。そのスペースにすべてヨコ位置のB3サイズ木製パネルを、高さをそろえて横一直線に1メートル25センチメートルに一枚の間隔で、ポツンポツンと、そして整然と配置します。

 

 会期中に観客がいっときにわあーっと押し寄せて会場がいっぱいになるようなことはありませんでしたが、それでも入り口のドアーを開ける午前9:00から夜の7:00すぎまで、写真を見にやって来てくれる人はポツリポツリではあっても、ほとんど途切れることはありませんでした。

 

 札幌市教育文化会館は札幌高等裁判所や家庭裁判所に札幌高等検察庁の官公庁がある大通公園の西の端、繁華街や大小のギャラリーが密集した中心街から少し離れた北1条西13丁目にあります。専用の駐車場もなく、交通手段はタクシーか市営地下鉄駅から歩いて10分、いたって利便性の悪いところにあります。

 しかもギャラリーは建物の4階の一番奥まったところ。逆に言えば、そんな不便を押してでもやって来てくれる人は、わざわざ写真展を観る気でやって来てくれているということです。札幌市の繁華街にあるお目当てのギャラリーを回って、ついでにここに来た人たちではないということです。これはとってもありがたいことです。

 

 バックグランドミュージックなどいっさい流さない。いったんガラーンとした写真展会場内に入れば、物音ひとつしない静寂の別世界。受付などのスタッフには私語も、もちろん携帯電話も慎むように指示していました。

 時には広いギャラリーに観客は、その人ひとり。否が応でも一点一点のモノクロ写真に集中して向き合わざるを得ないシチュエーション。ある種の緊張感が走ります。

 そんな観客の一人が、こんな感想をもらしてくれました。

 

「 この写真展には独特の雰囲気がありますね 」

 

 それこそ僕がねらっていたこの写真展のコンセプトであり、演出だったのです。僕は、” してやったりっ! ” と、心の中でほくそ笑みました。

 

〔 註: この場合、”してやったり”とは、通常無理だと思われていた事が思い通りに成(な)すことができた

    という達成感を表す感嘆詞で、悪巧(だく)みをまんまと成し遂げたという意味ではありません

    (広辞苑より)。念のため(苦笑)〕

 

  2012年4月、広島市中区「広島市市民交流プラザ」展示ホールで開催した「熊野の郷・雲」写真展のときもそうでしたが、今回の札幌展でも展示した写真の一点一点にタイトルは付けておりません。一連の写真30点でひとつの作品で、そのタイトルが「熊野の郷・雲」であり、僕は最初からひとつひとつの写真にタイトルを付けるつもりなど毛頭ありませんでした。

 でも実際の「広島展」会場では、やはり、なぜ今の時代にモノクロなの? なぜ雲だけしか写っていないの? という意見とともに、なぜタイトルを付けていないのですか? 季節はいつですか? 朝ですか夕方ですか?という質問までも受けました。

 今回の「札幌展」でも、高飛車に同じような質問をした上で、当然のごとく写真の説明を求める観客もおいでになりました。

 

 僕は、手短にお話しした後、” あなたはどう思われますか? もう一度写真を見て、あなたの答えを見つけて下さい ” とお伝えしたところ、怪訝(けげん)な顔をしてやがて不機嫌な顔になって足早に会場から立ち去っていく方もおいでになります。僕の答え方も、「木で鼻をこくる」ような態度だったのかもしれません、ゴメンナサイ!(苦笑中)

 

 僕は、自分の創作表現に対して説明を加えることほど半可(はんか)くさい(北海道弁で、馬鹿らしい)ことはない。恥ずかしいことだと思っています。創作表現というものは余分なものを切り捨て切り捨てて、もうこれ以上はどうにもしようがないところまで追い詰めて、そこに作者は思いの丈(たけ)をぶつけて表現している。それをどう受け止めるのか、どう考えるのかは、あなた方観客のみなさんの作業だ。僕は常々そう思って写真をやって来ました。

 

 現代は情報化社会だ。今の世の中の人たちは、解説書やマニュアル本に飼い慣らされて、自分で物事を判断する、考える、自分でイメージを広げてみるということに等閑(なおざり)になってしまっている。簡単で手っ取り速い情報を得て、それで理解したような気でいる。テレビ・新聞などのマスメディア、お上(かみ)や役所のえらいさんや管理者、権力を持っている人たちから与えられる情報に慣れっこになってしまって、頼り切りになってしまって、本当はどうなんだろうか?と一般庶民の特有の知恵を働かせることを止めてしまっている。

 この「熊野の郷・雲」写真展は、そんな世の中の風潮に対する僕なりのレジスタンス・アンチテーゼなのかもしれません。

 

 でもこれって、いち表現者として、観る人にけっして親切な態度ではないかもしれませんね(苦笑)。傲慢だ!の誹(そし)りも受けるかもしれません(さらに大苦笑)。

 そのために、僕はチョット自省して「札幌展」の案内状チラシには、『「熊野の郷・雲」札幌展によせて』(ああ、雲の奴、気持ちよさそうに浮かんでいるなぁ~、以下の文章)の一文を添付しました。僕には、” どうか、これで僕の気持ちをわかってください ” というせつない願いがあったのです。僕なりの最低限の観客のみなさんへ送る情報でした。僕の思いは通じたのでしょうか?

 

 「札幌展」の感想文をあらためてじっくり読み直してみると、モノクロ写真に対する認識を改めてもらって、さらには理解を深めてもらい得たのかな?と感じます。モノクロ写真が、カラー写真にはない表現力の豊かさを持っていることに気付いていただけた。それが僕には先ずいちばんにうれしいことでした。

 

 一度順路通りに写真を見終わった人が、もう一度最初からじっくりと観直すお客さんもけっこうたくさんおいでになりました。中には会場に用意したスツールに座り込んで、案内状のチラシを読み直して、いったん小休止をしてから再度写真を見てまわる人たちもよく見かけました。それはまるで、雲の写真と ” 格闘 ” している姿のようでもありました。

 

  その格闘の結果、

 

「 モノクロの写真は、光と影をはっきりと、ところによっては交ざっている様子が見えて、自分の気持ちが

  シンプルに反映される気がします。 」

 

「 雲から大きな未来を感じました! 」

 

「 モノクロゆえに、色がない分、雲が生き生きと感じられました。うろこ雲が波紋にも見えました。 」

 

「 同じ場所から撮ってもまったく違う表情を見せる雲たち。動物に見えたり、空ではなく水面のように見え

  たり、光を感じたり・・・。モノクロだから表現できる可能性の広がりも実感しました。 」

 

「 うろこ雲が水面にも見えて、ふしぎでした。 」 

 

「 雲は色がつくとふつうの空なのに。白黒になるとおそろしい、自然そのもの。 」

 

「 その一瞬を大切にしたい。そんな思いを感じます。毎日、空を見上げて、何を感じるか、見つめ直して

  いきたいです。 」

 

「 一日一日、決して同じ朝は来ない様に、同じ時はない。中田さんの写真を見て、また前を向いて今日を

  生きます。 」

 

「 最初は雲の写真なんてと思っていました。忘れていました。雲を見る楽しさや変化を楽しむ心を忘れて

  いました。浮き出て見えたり、宇宙のように見えたり、湖のように見えたり・・・。 」

 

「 空の写真なのに、何故か、海の中を見ている気分が出てきました。海の中には太陽はないのに。雲に隠れ

  た空は、海の底深く入射する光に似ているのかなと考えてしまいました。

  山のすそ野に見える番屋と建物が人間の存在と営みをかすかに感じさせてくれますが、天と地をつなぐ

  山の存在は人間よりももっと大きなものを示しているようでした。 」

 

「 入道雲がライオンの格好に見えたり、いろいろな動物が入っていて、すごく興味がありました。みなさん

  も探してみて下さい。 」

 

「  雲の写真を見て、とても大きなものを感じました。きっと何かをやろう、頑張ろうとすることに、無理

   なことなんてないのだということだけはわかった気がします。

   私もこれから何か悩んだり落ち込むことがあれば、空を見て、大きいなぁと思って、頑張っていこうと

   思います。ありがとうございました。 」

 

 などなどの感想をいただきました。

 

 その格闘の姿は、僕には、モノクロ写真からみた雲の存在に対して、けっして受け身ではなく主体的に、かつ能動的に関わろうとしている。雲と取っ組み合いの対話をする中で、観客のみなさんがそれぞれの自分の想像力やイメージをふくらまさせ、さらには自分自身の存在すらも見直そうとされている。僕はこのことに心が揺さぶられるような感動を覚えました。逆に僕の方こそ、” よしっ、これからもがんばって生きよう! ”という 、そんな勇気を与えられたのです。

 

 札幌のみなさんは、すばらしい!! 札幌のみなさんの感性は、大人(おとな)だ! 「 札幌展 」 をやって、ほんとうに良かったっ! ありがとう!

 

 

 今回の札幌展の主催を引き受けて下さった「NPO法人難病支援ネット北海道」、後援を承認して下さった「一般財団法人北海道難病連」、「(株)スズキ自販北海道」、ご支援をいただいた「難病連ボランティアグループ青いとり」のみなさん。

 

 写真展示と受付のスタッフ。佐藤通晃さん、高橋雅之さん、山本隆夫さん、伊藤直紀さん、新井 宏さん、伊藤美恵子さん、伊藤紋乃さん、僕の写真仲間と友人たち。

 

 みなさんに心から感謝の辞を述べます。ありがとうございました。

 

 また札幌で再会しましょう!

 

                                        中田輝義 拝

 

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